端正な防水時計 セイコー シルバーウェーブZ(7546-6050)

短命に終わったZ

クオーツ シルバーウェーブの歴史

最初から脱線しますが、ドラゴンボールZの「Z」って鳥山明氏が命名したのですね。Zはアルファベットの最後の文字だから、これで(原作連載)もうおしまいという意味だったようです。ははは。流石にそれではマイナスイメージなので、究極とか最強という意味ということに変えましたが。

シルバーウェーブZの「Z」ってどんな意味だったのでしょうね。当時のカタログでもあれば書いてあるかもしれませんが、今となっては知る由もありません。おそらく日産フェアレディーZ とおなじ最高・究極という意味なのかな。

当然Zのつかない無印のシルバーウェーブもあります。シルバーウェーブの歴史は古く、初出は1962年発売のセイコーマチック シルバーウェーブです。防水時計の愛称として使われてきました。

クオーツ シルバーウェーブ は1977~1985年まで約8年販売されました。その中で クオーツ シルバーウェーブZ は1978~1980年の約2年販売された、無印よりも少しだけ高価で、回転ベゼルが追加されたり、凝ったデザインのモデルでした。多いときには10種のモデルがラインアップされてましたが、1979年に本格的な潜水用防水の 7548クオーツダイバー が発売されると、バトンタッチするようにフェードアウトしていくのです。

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セイコー販売店用 ウォッチカタログ1979年vol.1からの転載です。

今回紹介するシルバーウェーブZ(上記カタログ右側)は1978~1979年の約1年間だけラインアップされたモデルですが、それなりに売れたようで中古市場の残存数は多く珍しくはありません。

SKX00* ボーイのご先祖様

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セイコー販売店用 ウォッチカタログ1980年vol.1からの転載です。

上記の7548クオーツは、現代の SKX00* ボーイ にも引き継がれているセイコーダイバーズのロングセラーデザインです。非常に完成されたセイコーの代表作だと言えます。

よく見ると今回のシルバーウェーブZと形がよく似ていると思いませんか。正面から見るとラグやリューズガードのデザインもそっくりです。1年前に発売されているので、おそらくシルバーウェーブZのデザインが先で、さらに進化したデザインが7548と考えるのが自然だと思います。

さらにさかのぼると

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セイコー販売店用 ウォッチカタログ1978年vol.1からの転載です。

上記の1977年に発売されたこのシルバーウェーブにつながるでしょう。これは回転ベゼルがないだけで、ほぼ同じケースデザインです。

さらにさらにさかのぼるなら

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セイコー販売店用 ウォッチカタログ1978年vol.1からの転載です。

上記の機械式シルバーウェーブにつながるでしょう。このモデルは5アクタス時代からありますが、サイドの曲線とラグの形状はここから始まったと思います。まだリューズガードはありませんし、元は当時流行ったジェラルド・ジェンタ氏のオメガCラインから派生したものでしょう。

もちろん私の推測に過ぎません。こうやってデザインをさかのぼり、進化・熟成されていく過程を見ると面白いですね。

端正で美しい文字盤

相変わらず前置きが長いですね(笑)

ケースデザインも素晴らしいのですけど、この時計の真骨頂は文字盤だと思います。この端正な文字盤を見よ。

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これ42年前の時計ですからね。モダン過ぎると思いませんか。逆に言えばこの時点で完成してしまって進化していないのかもしれません。

奇をてらうところは全くありません。オーソドックスなバーインデックス・ペンシルハンド。サイズ・配置のバランスが絶妙です。針はメモリに届きそうなくらいに長く、黒文字盤に白針はコントラストも高く、老眼でも時刻が読みやすい。

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全てのフォントに手抜きがなく、最近の時計のように部品の組み合わせだけのヤッツケ感がありません。何が違うのかなあ。明確に表現したいけど私に知識と語彙がないことが悔しいです。おそらく今はCADで部品のコピペを多用するけど、当時は手書きで設計者が細部までこだわっていたのかもしれません。

1983年発売のスピードマスター(7A28-701A) の設計者と同一人物な気がするのです。各部のディテールも似ているし、全体のまとめかたが素晴らしいところも同じです。どちらの時計からも研ぎ澄まされたセンスを感じます。

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ダイバーズ時計ではなく強化防水時計なので、回転ベゼルにラチェット機構はありません。左右どちらにもグルグル回ります。機械的な嵌合とベゼルガスケットの摩擦力だけで固定されている簡易なモノですが、ガタもなく任意の場所で止められるので意外に悪くありません。

ガラスはキズだらけだったので、砥石と酸化セリウムで磨きました。本当はサファイアガラスに交換したかったのですが、G構造というややこしいガラス固定方法なので単純に同径・同厚のサファイアガラスは入りませんでした。長くなるので詳しい解説は省略します。

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ケースにもキズがあったのですが、さっと艶出だけして完全にキズ消しはしていません。

リューズはネジ込み式です。リューズパッキンも入っているので防水が期待できます。同じく裏蓋もねじ込み式+パッキンなので、この頃の時計としては防水性能が高いと思われます。一応各パッキンは新品に交換しましたが、当時はまだ潜水時計・防水時計のJIS規格もなく、各メーカー背伸びして防水性能を誇っていただけなので、あまり期待しすぎないほうが良いでしょう。夏の汗や手洗いのとき多少飛沫がかかるくらいなら問題ないでしょうけど、水に漬けたり強い雨に晒したりすることはやめたほうが良いでしょうね。

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ベルトは、オリジナルのステンレスベルトです。キズが多かったので再度ヘアライン加工を施しています。私は腕が細いので中古時計を買ってもステンレスベルトが短かったことがなくコマ探しをしたことはありませんが、この個体はかなり短かくカットしていたので延長クラスプを使いました。今までのストックがようやく役に立ちました。

このベルトは無垢ではなく巻きベルトです。この当時のベルトは、コマが薄く軽く遊びが大きくクタクタなので付け心地が良いのです。巻きベルトの良さが分かってくると、見た目の高級感なんてどうでもよくなりますね。オーソドックスな3連ベルトはスポーティでこの時計によく似合います。

ケースの比較と進化

折角なので、SKX007ボーイ・7548クオーツダイバーと比較してみます。

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左側:SKX007ボーイ 中央:7548クオーツダイバー 右側:シルバーウェーブZ

ケース径が違いますが、同系統デザインだと分かります。正面から見た姿はそっくりですね。大きく違うのはサイドの造形。シルバーウェーブは寸胴で、ボーイや7548のような滑らかな逆テーパーがありません。


サイズがほぼ同じくらいの6458クオーツダイバーでも比較してみます。

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左側:シルバーウェーブZ 右側:6458クオーツダイバー

正面から見た姿もこちらのほうが似ていますね。6458クオーツダイバーは本格的ダイバーなので、リューズも凝ったつくりで大きくなっています。ベゼルもラチェット機構が付いて分厚く回しやすい形状になります。

さあ手に入れよう

先にも書きましたが、販売期間は1年と短いですが、中古市場での残存数は多いです。ヤフオクでも月に1~3個くらい出品されます。良品は10000円を超えることもありますが、並品で5000円~、ジャンクで3000円~といったところでしょうか。シルバーウェーブは全般的に人気がありますから、欲しい人も多く競合することもあります。しかし根気よく狙えば必ず手に入れることができる時計ですよ。

40年以上前のクオーツ時計なので、そろそろメンテナンスが必要な時期かもしれません。オールドクオーツはオーバークォリティな設計が多く、非常に丈夫です。しかしアナログ時計は針を機械駆動しなければならないので、どうしても部品洗浄や油を差す必要があります。しかし機械式時計のように頻繁にメンテナンスする必要はなく40年間ノンメンテナンスの個体も珍しくありません。基本5年ごとの電池交換だけです。調子の悪い個体でもオーバーホールしてやればまた数十年動き続けるのです。それに7546ムーブメント自体も他のモデルにも使われ非常に多く出回ってますから、まだまだ中古部品の心配は要りません。もちろん新品部品は出ませんけどね。


----- 諸元 -----

・ムーブメント
キャリバーNo. 7546(4石)
クオーツ(ハック付き)
電池 SR43SW

・外装
ステンレスケース スクリューバック ポリッシュ/ヘアライン仕上げ
ミネラルガラス風防(G構造)

・ベルト
ステンレスベルト ポリッシュ/ヘアライン仕上げ

・サイズ
ケース径 38.8mm(リューズ含まず)
全長(ラグ端-端)44.8mm
厚さ 11.0mm
ラグ幅 20mm

・重さ
本体のみ 53g
ステンレスベルト 40g
合計 93g