美しい道具 セイコー オービタックス ASKT001(V701-2K10)

実は同じ時計を買っている

旧ブログで書いた記事

oldjapanwatch.blog.fc2.com

この個体も気に入って使っていましたが、純正ナイロンベルトが馴染めなかったのです。後述しますが、この時計はベルトの固定方法が特殊なので汎用ベルトはそのままでは付きません。一応改造プランを考えて、材料も揃えたところで財政難に陷り売ってしまいました。それなりに残存数もあるモデルなので、また買い戻せばいいと思ったのです。

ようやく買い戻す

しかしここ数年で少しずつ相場が上がってきました。キレイな個体は10000円超えが珍しくありません。王道デザインではありませんから万人受けはしないのです。しかもアルバの時計なんてほとんどの人は知りませんから、マニア間で奪い合いというところでしょうか。

オービタックスには、ステンレス・ナイロン・ウレタンの3種のベルトがあります。ウレタンは経年劣化でもれなく切れてますから実質2択です。今回はステンレスベルト狙いでした。紆余曲折ありましたが、そこそこ良い個体を相場価格で手に入れました。

オービタックスについて

オービタックスは、2000年にアルバカタログにラインアップされます。

アルバは1979年から続く歴史の長い、セイコーの若者向けブランドです。しかし2000年に若者向けの新しいブランドであるワイアード(WIRED)が発売され、2001年にセイコー組織再編が行われ、ウォッチ事業が分社化されます。この頃からアルバのラインアップもリストラが行われ、オービタックス・AKA・K2000などの面白いモデルは廃盤となり、2003年頃には現在のようなつまらない窓際ブランドになってしまいます。つまりオービタックスはアルバ最盛末期を飾る華であったと言えます。

今見ても完成度の高いデザインなので、企画・設計段階から練り込まれていたと想像していましたが、カタログを読むとそうではないことが分かります。

発売当初

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写真はALBAカタログ 2000年 VOL.1 からの転載です

発売した当初は、クロノグラフ4種とダイバータイプ2種のみのラインアップでした。文字盤が黒で統一してあり、視認性を重視して見やすさとスーツにもあうような精悍さを演出したと記載してあります。

コンセプトも“金属パーツ感を前面に押し出したスポーティデザインです”とだけしか記載がありません。

またオービタックスの意味も“造語”としか記載がありません。

追加モデル

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写真はALBAカタログ 2001年 VOL.1 からの転載です

回転ベセルがついたハードシリーズ、ウレタン外装がついたライトシリーズが追加されます。ダイバータイプシリーズにも2色カラー違いモデルが追加されます。これでフルラインアップになります。

コンセプトも少し変わります。
“【Ovitaxの3つのポリシー】
●Hard but Simple(アウトドアイメージのタフなデザイン、だけど服に合わせやすい)
●Tool(金属の道具感と存在感)
●Quality(10気圧防水/心地よい装着感と優れた視認性)”

後付改変かもしれませんが、方向性は変わっていません。おそらく企画開発時にも似たようなコンセプトがあったはず。これはお店用のカタログですから販売店員に分かりやすくするために書き直したのでしょう。

オービタックスの意味も詳しく解説されます
“オービタックス=Orbit(活動)+Vitality(活気)+X(未知の)”

これは後付にしては出来すぎな気がするので企画開発段階から決まっていたのだと思います。最後のXは強引な気もします。基本デザインがカメラモチーフなので、~ックスというメーカーから引用したのでしょうね。カッコいい銘なので良いのですけど。

どのモデルもカッコいいのですが、一番欲しいのはハードシリーズですね。販売期間が短いので残存数も少なく滅多に出物がありません。まさにオービタックスの完全体ですね。

金属感と美しい道具

ようやく本編です(笑)

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外胴を含めたケースデザイン、回転リング(チャプターリング)のデザインモチーフはカメラレンズなのは明らかですね。

カメラモチーフの時計は、オリエント レトロフューチャーカメラとか

www.orient-watch.jp

TACSとか

www.tacs-image.jp

ありますけど、オービタックスのほうが古いです。私が知らないだけでもっと前にもカメラデザインの時計があるかもしれません。

逆に、腕時計型のカメラもあるみたいですね。キヤノンもコンセプトモデルとして同様のカメラを発表しているようです。用途や設計過程は全く違いますが、見た目は同じように円筒形なので面白い。

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回転ベゼルがないので、いわゆるセイコー外胴ダイバーズのような印象はありません。プロテクターというよりは一つの機能部品という感じです。もちろん何の機能もなく金属感を演出するための部品に過ぎません。

実際、側にあるネジを全て外しても、この外胴は外れません。リューズチューブが邪魔して抜けないのです。基本デザインを優先したのでしょうけど惜しいなあ。これ外れるようにして、オプションで着せ替えができるようにしたら面白かったのになあ。

アルバは低価格というお命題があります。コストダウンもシビアであります。よく見られるのはケースにステンレスを使わずに真鍮メッキを採用すること。このオービタックスもケース・外胴ともに真鍮メッキです。(一部モデルの着色された外胴はアルミです)これが曲者で傷が入り地金が露出するとそこから腐食が始まります。地金に汗がついたまま放置するとあっというまに虫食い状態になります。アルバは若年層向けなのでハードに使ったあと放置された個体が多いですから中古を購入するときは要注意です

私の個体も傷があります。困るのはリューズ・回転ベセル用リューズに水が溜まりやすく、接触面が腐食すること。外胴との隙間も水が抜けにくいですから、この時計はできるだけ濡らさないようにしたほうが良いですね。大汗をかく夏場も使うのを控えたほうが良いでしょう。折角の10気圧防水も意味がないですね。まあ当時は新品を購入して使い潰してもらえば良いと考えたのでしょう。とにかく気を使う素材・仕上げです。

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裏蓋はステンレスのスクリューバックです。この頃はまだ日本製だったのですね。回す方向は別にいらないと思うけど、こういう表記もデザインされています。そう言えばチャプターリングやケースにも矢印が入っていますね。

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バーインデックス・バーハンドのオーソドックスな文字盤です。奇をてらうことなく極普通ですけど美しい。大きさ・太さ・配置のセンスが素晴らしい。針も目盛りに届くくらい長くて時刻も読みやすいのです。もうデザイナーの技量という他ありませんね。昔のセイコーには低価格モデルでも手を抜かずに設計・デザインされる方がおられたのでしょう。

先にアップしたアルバカタログを見ると分かるのですが、どのモデルも針は同じです。色(白と黒)が違います。例えば黒文字盤のASKT001(このモデル)とASKT003は長短針の色が違います。針には夜光(ルミブライト)が塗られてるので、黒文字盤に黒針でも時刻は読めます。視認性ならば白針のほうが良いのですが、雫型の秒針が浮いて見えるのは黒針のほうですね。見た目のイメージも随分と変わります。

チャプターリングとケースに刻まれた、No.15501というナンバーの意味は分かりません。下一桁はモデルよって違います。ダイバータイプ:1、クロノグラフ:2、ライトシリーズ:3、ハードシリーズ:4 です。155の意味が気になってしまいます。

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リューズは2つあり、3時位置リューズが時刻合わせ用、4時位置リューズがインナー回転ベゼル用です。

回転ベゼルは、ポッチ(メモリ)が回転する簡易なモノですが、経過時間などを計ることができます。3時リューズには溝が入っているため引出しやすい、またこの溝がアクセントになってます。ノンデイトクオーツなので一度セットすると触ることはありませんけどね。4時リューズは外胴に埋まってるので使いにくいです。前に所有していた個体は指の腹だけで軽く回せましたが、今の個体はかたくて回しにくいです。これはガラスの圧入具合で変わります。滅多に使わない機能なのであまり気になりません。

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ベルトの固定方法が特殊です。一時期流行ったラグレスの時計と同じで、ストレートバーとCリングで固定します。本体ケース側の固定部幅は10mmなので、同じ幅の中コマのステンレスベルトなら加工流用できます。ただ純正ステンレスベルトの金属塊感のあるデザインがカッコいいのでカスタムする予定はありません。チープな巻きベルトですけど、それも含めてお気に入りです。

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オービタックス専用のクラスプです。これまたイカしてますね。

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すでにベルトが詰められていて私にもキツイくらいなので。延長管で伸ばして使っています。中国製の安物なのでヘアラインを入れ直してますが、デザイン的に違和感がありません。このタイプの延長管は使えますね。

ミニ外胴(SBDY061)との比較

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ガラス径は同じ28mmですが、オービタックスは内蔵回転ベゼルもありますから、文字盤はさらに小さくなりますし、外部回転ベセルはありません。外胴径も44mmと40mmで4mmの差がありますから、一回り以上小さいです。

どちらも細腕には重宝するサイズであります。

オービタックスには回転ベセルモデルもありますから、ミニ外胴(SBDY061)ベースでデザイン復刻すれば売れると思うけどなあ。

まだ欲しいよお

販売期間が短いので残存数も少なめです。特に追加モデルのハードシリーズ・ライトシリーズは希少です。ヤフオクやメルカリなどでは月に2~3本程度出品されます。そのうちハード・ライトシリーズは年に2~3本という感じですね。

出品数が少ないので価格にばらつきがあり、良品ならおおむね20000~12000円、並品で10000~7000円、ジャンクならば5000円以下くらいでしょうか。

ムーブメントは大量に生産されているモノなので、ドナーがいくらでも手に入りますから部品の心配はいりません。ただし外装品(ケースやベルトなど)は廃盤なので新品購入はできません。ガラスやパッキンなどの消耗部品はまだ新品購入できます。

ケースが真鍮メッキなので、状態の確認は必須です。表面に黒い点々がある個体は避けたほうが良いでしょう。基本的にキズ消しができませんから、大きなキズがある個体も避けたほうがよいです。ウレタンベルトはたいてい切れています。切れてなくてもカチカチですから観賞用でしかありまえん。ライトシリーズのウレタン外装もほとんどは劣化してしまって、取り外している個体も多いです。これも部品が出ませんから、完品で手に入れるのが一番難しいモデルだと言えます。

私はまだオービタックスを増やしたい・・・ははは。懲りないねえ。クロノグラフはムーブメントがV655だから興味がないけど、ダイバータイプの緑・白。そしていつかはハードシリーズを手に入れるのが夢です。割とマジで。

 

----- 諸元 -----

・ムーブメント
キャリバーNo. V701(0石)
クオーツ(ハック付き)
電池 SR621SW

・外装
真鍮メッキケース ステンレススクリューバック ポリッシュ/ヘアライン仕上げ
ミネラルガラス風防(私の個体はサファイアガラスに換装)

・ベルト
ステンレスベルト ヘアライン仕上げ

・サイズ
本体ケース径 35.4mm(リューズ含まず)
外胴径 39.6mm(リューズ含まず)
全長(ラグ端-端)39.6mm
厚さ 11.5mm
ラグ幅 **mm

・重さ
本体のみ **g
ステンレスベルト **g
合計 **g