中古時計を購入したら何をするか

こんにちは。
最近はやりたいことが色々ありブログ記事が書けなくて申し訳ありません。「いや別に待ってないよ」ははは。ごもっともです。

時計趣味をはじめて最大の金欠状態で、趣味口座残高が限りなく0なんです(泣)いい大人が情けないですね。というわけで時計も買うことができません。はああ。

ヤフオクやメルカリで購入した時計

お店で売っている中古時計はそれなりに手が入っていることが多く、何もしなくてもそのまま使えるようにしています。そのぶん価格も上乗せされているわけです。

しかしヤフオクやメルカリで個人売買されている時計は現状販売です。前オーナーの使い方や保管方法で状態が大きく変わります。ほとんどはノーメンテナンスなので、そのまま使うには気が引ける状態なことが多いです。

 

私が中古時計を購入したらすること

まずは状態を把握

・全体の姿を見ます

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もちろん入札する前に穴が空くほど写真は見ていますが、現物を改めて見ると気づくことがたくさんあります。時計は小さいのでディテールに目がいきがちですが、俯瞰することで全体のバランスを見ます。不備がある場合は直感的にオカシイと思うことが多いです。

この写真では分かりにくいですが、リューズが傾いています。

・手に取って、さらに細かく見ます

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破損した箇所、キズの入り具合、汚れ具合、各部品の不備、各部品の取り付き方(チリ・傾きなど)、可動箇所の動き、ベルト確認(長さ・純正であること)などを、なぜこうなったのか想像しながら見ていきます。

裏蓋やベルトの隙間についた黒い物体は、人間の垢と汗とホコリが混じってネトネトになり溝に入り込み固まったモノです。はい。メッチャ汚いです。私は自分の汚れならまだ良いけど、他人の汚れは我慢できません。潔癖症ではありませんが、中古時計は洗浄を必ずします。大なり小なり汚れているのは間違いありません。

本体のキズは少なめですが、ベルトのキズは深く多いです。風防ガラスにもキズが入ってます。ベルトの動きは悪くありません。コマ数も不足無くなんとか私の腕サイズに合います。

・機械式ならゼンマイを巻いて、クオーツならば電池残量を確認して作動確認

正常に動くかどうか確認します。またリューズを動かして時刻・カレンダー合わせができることを確認します。クロノグラフなど他機能がある場合は、その作動確認をします。中古時計には取扱説明書はついてないことがほとんどなので、以下のメーカーサイトなどで該当モデルの説明書をダウンロードしておきます。

www.seikowatches.com

この個体はリューズが傾いているので、時刻合わせのときが気持ち悪いです。時計もストップウォッチも正常に作動しました。押しボタンの感触も悪くないです。

・採寸する

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時計のサイズを測ります。目の錯覚もあり目分量は当てになりません。採寸を何度もすることでスケール感の精度が上がっていくのです。これは私だけでしょうね。ブログ記事データのためでもあります。

このモデルはチタン外装でキズ付きやすいので慎重に計測します。

何が必要か考える

時計が起動しない場合、機械式ならOH、クオーツなら電池交換かOHが必要になりますから、その段取りをします。

ベルトが社外品で気に入らなかったり、劣化が激しくて捨てるしかない場合、ベルトを入手する段取りをします。

風防ガラスが傷だらけならば、純正品番を調べて、新品ガラスの手配。パッキン・ガスケットなどが傷んでいる場合はその部品の手配をします。

なにはともあれ洗浄

裏蓋を開ける前に全体を洗浄します

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ベルトを外して、中性洗剤とブラシをつかって汚れを水洗いして落とします。
丁寧に何度も洗いキレイにしますが、ブラシが届かない部分の汚れを落とすため超音波洗浄も行います。

本体は一応防水されていますが、パッキンの状態も分からないので水は使わずに、ナイロンブラシで丁寧に汚れを落としていきます。落ちにくい部分はパーツクリーナーをウエスにつけて擦るとたいがいの汚れは落とすことができます。汚い黒い物体がボロボロと落ちてきますから、新聞などで周囲が汚れないようにしましょう。

裏蓋を開閉します

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ムーブメント・パッキンの状態を見るためと、機械式ならOH、クオーツなら電池交換時期を調べるためです。

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前回の記録を裏蓋に残すことが多いです。どうやら2015年10月に電池交換しているようです。このムーブメントの電池寿命は3年なので標準よりも長く使えています。そろそろ電池が切れてもおかしくないので電池は注文しておきます。

裏蓋パッキンの状態は良好だったので、再使用します。(シリコングリスを塗ります)
電池の液漏れもなくムーブメントも異常は無さそうです。

傾いたリューズの状態を見るために、ムーブメントから外します。ムーブメントの PUSH→ と書いてある位置のレバーを細い棒で押しながらリューズを引っ張ると外れます。

 

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リューズと巻き芯はネジで固定されています。どうやらリューズの根元が曲がっているようです。普通に使っているとこんなところ曲がらないのですけどね。反対側に曲げて直しますが、あまり無理に戻すと簡単に折れてしまいます。このムーブメントはまだ製造されているので巻き芯は手に入りますが、おそらくリューズは絶版で手に入らないでしょう。似たデザインのリューズは手に入りますが、ここはオリジナルにこだわりたいので慎重に少しずつ戻します。折れるのが怖くて完全には戻せませんでしたが、回して違和感がない程度にしました。

ついでにリューズも洗浄してキレイにします。パッキンはまだ使えそうなので再使用します。(シリコングリスを塗ります)

ガラス磨き(気休め)

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イレギュラーな方法ですが、風防ガラスを外さずに研磨します。本来ならガラスを外して研磨しますが、キズが小さく浅く、とりあえず手間を掛けたくありません。ガラスはプラスチックガスケットで固定されていますから防水には期待できます。異物が中に入ることもありません。

写真のようにケースを研磨しないようにマスキングテープを貼ります。

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ウエスに酸化セリウムと水を少量つけてガラス面を擦ります。酸化セリウムは研磨仕上げ材なのでたいした研削力はありません。もちろん目に見えるキズは消えません。完全にキズを消すためにはもっと荒くて研削力のある砥石などを使います。今回はキズが目立たなくなれば良いのです。キズのエッジを丸くすることで、キズが白く反射しにくくなりキズが目立たなくなります。

まあ気休めですから時間を掛ける意味はありません。適当に擦って全体に艶が出たら終了です。とりあえず今回はこの状態で使います。どうしてもキズが気になるようなら、新品のガラスに交換します。

ベルトのキズ消し・ヘアライン再仕上げ

超音波洗浄が終わったベルトを仕上げ直します。
この頃のチタンは柔らかくキズがつきやすいです。実際このベルトはキズだらけでした。

基本スポンジヤスリでヘアライン仕上げをしますが、大きく深いキズは消えません。あらかじめ精密棒ヤスリで削ってキズを消しておきます。

精密ヤスリ #6-1511 5本セット

精密ヤスリ #6-1511 5本セット

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 棒ヤスリは上記のような精度が高くて切れ味のようモノだとキレイに仕上がります。

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#320スポンジヤスリでヘアライン仕上げするときは、必ずベルトの長手方向と平行に動かします。写真のようにガイドを使って真っ直ぐ動かすとキレイに仕上がります。

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普通は#320で仕上げますが、この時計の本体はチタンのブラスト仕上げなので、合わせたときに違和感の無いように、さらに細かい#600スポンジヤスリを使って仕上げます。

ベルトを元通りに組み立てて完成です。

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こんな感じで、ヘアラインの目を細くすることで本体の仕上げの雰囲気に近づけることができます。

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中古時計に手を入れること

今回は中古時計の手の入れ方を紹介しました。もちろんこれは私のやり方ですし、時計や状態が違えば方法も変わります。全ては書ききれませんが、失敗しながら経験値が増えてくると色々と対応できるようになります。各人の作業レベルも異なると思うので、出来ない部分はプロに任せるも良し。下手に触るくらいなら妥協して使うこともあるでしょう。

私も無限に時間があるわけではありませんから妥協します。いくら頑張っても新品には戻りませんし、使っていればまたキズもつきます。中古時計を買うならおおらかな心をもつことも大事です。しかし手入れも含めて趣味なのですからこだわるところは徹底すれば良いと思います。

私はこの手入れを儀式だと思っています。
状態の良い個体であっても、最低限の洗浄だけは行います。前オーナーの痕跡としてのキズは許せるけど、手垢は嫌だからです。すっきりさっぱり洗うことで私のモノとなるわけです。